2016年にルービックキューブ公式大会で起きた懲罰・重大インシデントまとめ

記事投稿日 : 2016年12月5日
最終修正日 : 2022年11月21日

※この記事は、Speedcubing Advent Calendar 2016の企画として執筆したものです。

現在ルービックキューブの大会は世界中で行われていますが、規模が大きくなるにつれて、トラブル(インシデント)も多くなります。

世界キューブ協会(World Cube Association : WCA)では、大会でのインシデントが報告された場合、 WCA懲罰委員会(WCA Disciplinary Committee:WDC)でその内容を審査し、対象者の処分等を決定します。

そして重大な内容についてはWCA Organisationのフォーラムで報告がされるため、一般の会員もその内容を知ることができます。
WCA Organisation

この記事では、2016年にWCA Organisationフォーラムで報告された懲罰・重大インシデントについてまとめたいと思います。

競技者の不正によるインシデント

まずは、競技者が大会中に行った不正によるインシデントです。

目隠し競技中の不正

最も多いインシデントは、目隠し競技での不正です。2016年だけで5件も報告されています

Incident in 3x3x3 Blindfolded at Great Indian Cubeathon 2016
Incident at Blind and Whatnot 2016
Incidents in blindfolded events at Spanish competitions
Incident at SCMU 2016
Incident at National Cubing Region 2016

目隠し競技での不正については、2007年~2008年にかけて数多くの世界記録を持っていたハンガリーのMátyás Kutiが目隠しの下から覗き見るという行為をしていたことが発覚 (3年間の出場停止処分)して以来、目隠しに加えて不透明な板を用いることが義務付けられましたが、それでもなお不正はなくならない、 というより競技者の増加に伴ってますます増えているように思います。

また、2016年に報告されている5件の不正がすべて18歳未満(氏名非公開)というのも注目すべき点かもしれません。

この不正に対する処分は、1年間の公式大会出場停止が通例となっているようです。

最少手数競技中の不正

Incident in 3x3x3 Fewest Moves at Great Indian Cubeathon 2016

2016年3月5日~6日にベルギーで行われたZonhoven Open 2016にて、18歳未満の競技者が最少手数の試技中にスマートフォンを操作して手順を盗み見しているのが発見されました。試験でのカンニングと同じですね。

北京でのアジア大会では、こういった不正を防ぐために事前にスマートフォンを回収されました。 競技者はこの不正で半年間の公式大会出場停止になっています。

インスペクション中の不正

Incident at Iran Grand Prix 2016

2016年4月14日~15日にイランで行われたIran Grand Prix 2016にて、複数の競技でインスペクション中にパズルを動かしてズルをしていたことが発覚しました。

ジャッジがちゃんと見ておけよという感じではありますが、もちろんこれは不正です。 競技者はこの不正で1年間の公式大会出場停止になっています。

スクランブルに関する不正 その1

Incident at Los Lagos Open 2016

2016年4月2日~3日にチリで行われたLos Lagos Open 2016にて、2x2の競技中にジャッジをしていたManuel Torresが、知り合いの競技者にわざと簡単なスクランブル状態になったキューブを渡しました。

そのソルブではとても早い記録がでましたが、スクランブルが本来のものと違っていたことはすぐにバレてしまったようです。

彼はこの不正で3ヵ月の公式大会出場停止になっています。

スクランブルに関する不正 その2

Incident at Manhasset 2015 and Williams Winter 2016

2015年11月21日のManhasset 2015、2016年2月13日のWilliams Winter 2016にて、ある競技者がスクランブラをしている際に、意図的にスクランブルを簡単なものにしていたという事案がありました。

その一例が、元世界記録保持者のCollin Burnsが行ったこの試技です。

5.21秒というかつて持っていた世界記録を超える記録ですが、解析をすると、2手でF2L 2つ目まで、5手でF2L 3つ目まで終わるという、とんでもないスクランブルであることが分かります。

(参考: Collin Burns - 5.21 3x3 Single (miss-scrambled and replaced)

この一件だけではなくその他にも多数このような事案が発覚し、その場で気づいて正式なものでやり直したものもあれば、中には後日記録なしとなったものもあったようです。

運営側が多くの人を巻き込み混乱させる事態に至った本件は、18ヶ月の公式大会出場停止という厳しい処罰が下されています。

運営不備、ルール不備によるインシデント

ここから先のものは、競技者による意図的な不正によるインシデントではなく、運営上・ルール上の問題によるインシデントの報告です。

Square-1スクランブルに関するインシデント

Square-1 SAR single at Torneo Nacional Colombia 2016

2016年5月7日~9日にコロンビアで行われたTorneo Nacional Colombia 2016で、David Rojas Herreraが南米記録となる7.74秒の記録をだしました。

しかし試技の様子を分析したところ、スクランブルが正式なものとは異なっており、非常に簡単なスクランブルになっていたことが分かりました。

Feliks Zemdengsが片手の単発世界記録6.88秒を出した時に、これもビデオを解析した結果スクランブルが間違っていたことが発覚しましたが、こちらは極端に簡単なスクランブルにはなっていなかったという理由で、記録が認められました。

しかしDavid Rojas Herreraの場合は、この記録は認められませんでした。

Square-1はスクランブルによって極端に簡単になる場合があるため、このように対応が異なるのだと考えられます。

Square-1試技中のインシデント

Square-1 Final at Fantastic Manhattan Competition 2016

2016年8月20日にアメリカニューヨークで行われたFantastic Manhattan Competition 2016のSquare-1決勝でのインシデントです。

決勝試技の一部の試技卓で、競技者の視界に入る場所にスクランブル用紙が置かれた状態で試技を行っていたという理由で、この大会での決勝試技がすべて無効になりました(順位は1回戦での結果で決定)。

そのときの動画がこちら。

試技をしているすぐ右前、スタックマットにかかる形で置いてあるのが、スクランブル用紙だと思われます。

動画のBrandon Linは平均記録の世界記録をだしましたが、もちろんこれも無効となりました(ちなみに彼は1ヵ月後にこの動画よりさらにいいタイムで世界記録を更新しています)

責任は運営・スクランブラにあると思いますが、これだけ目に入るところに置いてあるのを競技者が指摘しなかったという責任もありますので、無効試技もしょうがないかなという気がします。

最少手数解法に関するインシデント

Fewest Moves incident at Zonhoven Open 2016

2016年3月5日~6日にベルギーで行われたZonhoven Open 2016にて、Linus Freszが最少手数競技で21手、26手、25手の平均24手という記録を出し、世界記録を更新しました。

彼はその解法を大会後すぐに掲示板に投稿も行っています。

https://www.speedsolving.com/threads/linus-fresz-dnf-24-00-fmc-mean.60155/#post-1158242

このとき問題となったのは、1回目の21手を出したときの解法でした。その解法のうちの最初の11手までが、19手のスクランブルの最後11手をまるまる逆に回したものと同じものになっていました。

最少手数競技では、「E2e) 競技者の解法はスクランブル手順の任意の部分に直接由来してはならない。」というレギュレーションがあります。つまり、スクランブルをヒントにしてそれを逆にして解いてはいけませんよ、というルールです。

しかしLinusは最少手数競技に関してかなりの実力者であり、この21手の解法もNISSといった最少手数競技のテクニックを駆使して説明できる形で解いており、スクランブルをヒントにした訳ではなく、この11手の一致は完全に偶然であることは明らかです。「E2e1) スクランブルアルゴリズムに関係なく、WCA 代理人は競技者に対し解法中の各手順の意図の説明を求めることができる。」というレギュレーションもあるため、この記録は大会のWCA 代理人によって一度は認められました。

しかしWCAは、このレギュレーションに不備があったことを認めた上で、Linusのこの記録を無効とすることを決めました。

そして後日レギュレーションの見直しが行われ、最少手数競技のスクランブルではスクランブルの最初と最後に同じ3手の手順(具体的にはR' U' F)を必ず入れること、そして「E2e++) 例 結果が試技の失格(DNF)となる例:解答の開始部分が逆スクランブル手順と 4 手以上一致する場合。」とするガイドラインを追加しました。

Linusにとっては全くの不運でしかありませんが、WCA発足から10年以上たった今でもレギュレーションは完璧ではないということを示した一件です。

その他のインシデント

ルービックキューブというものを理解していなかったことによるインシデント

これはとても珍しく、話題になったインシデントです。

Incident at Big Apple Spring 2016

2016年5月21日にアメリカニューヨークで開催されたBig Apple Spring 2016に、ある子供が初参加しました。

無事大会参加を終え、後日その様子をYoutubeに投稿した後に、問題が発覚しました。その子は大会の多くの試技で、 キューブのコーナーをひねって回転させることでキューブを解いていたのです。

ルービックキューブをやったことがある人なら分かると思いますが、これは明らかに不正です。しかし運営が本人及び両親に確認したところ、本人達はこれがパズルを解くうえでダメなことだとは思っていなかったようです。

まったくもって信じられないことではありますが、近年の競技用に最適化されたキューブはたしかにほとんど力を入れなくてもコーナーを無理やり回転させることができるので、そういった勘違いをしてもおかしくないのかもしれません。

結局この競技者は、悪意はなかったとはいえ不正があったと判断され、不正な方法で解いた試技については記録なしとなりました。出場停止等の処分はされていません。

このインシデントはこの競技者個人だけの問題ではなく、明らかな不正をしているにも関わらず、ジャッジが誰もそれを指摘しなかったことのほうが大問題です。おそらくジャッジの中にルービックキューブができる人は全くいなかったのではないかと思います。

年間1000人以上のペースで大会参加者が増えているアメリカで、ジャッジの教育や運営方法等の見直しが課題になりそうです。

まとめ

以上、WCA Organisationフォーラムで報告された懲罰・重大インシデントのまとめでした。

日本で行われる大会ではこのような重大インシデントが起きることはとても少ないため、あまりこういった内容について敏感ではないかもしれません。しかし特に18歳未満の子供が起こすような不正については、いつ日本で起きてもおかしくないものだと思います(tribox Contestでさえ不正や荒らしが発生しているような状況ですから)。

大会参加への間口が広がるのはとても良いことですが、人が多くなるともちろんこういったトラブル・インシデントが起こる可能性も高くなりますし、これからの日本でのルービックキューブの発展を考えるうえで課題はたくさんあるのではないでしょうか。

最後に、WCA懲罰委員会では、日本のokayamaさんが最近までメンバーとして活動されていました。今回この記事を書くにおいても一部お話を聞かせていただき、ここに感謝の意を表します。